日本中医会・交流・コミュニティー

私の生活の中でも自然の移り変わりや、心や体の変化などを感じることができることではないかと思います。中医学を勉強すると、いろんな症状、心の状態、性格などまでを網羅し、多方面から心豊かに人に接することができるようになり、食材に対してもその素材の持つ効能を生かして料理することが考えられるようになるので、日々探求心をくすぐられます。
村岡奈弥先生
薬膳料理教室&セミナー 村岡奈弥料理教室

連載シリーズ『中医学とわたし』 File No.4

薬膳料理教室&セミナー
村岡奈弥料理教室主宰

村岡奈弥先生


国立北京中医薬大学日本分校食養・養生学科(現日本中医学院 中医薬膳専科)

中医学にご興味をもったきっかけはありますか?

 もともと食いしん坊で、美味しいお料理を食べた時はだれでも幸せを感じ、元気が出ると思っていました。そんな思いから料理の仕事に就きまして、その後フランスに留学をし、帰国後は、青山にあった「エミーズ」というレストラン形式のお料理教室の立ち上げから携わり、お料理のことだけを考え忙しい毎日を送っておりました。
 その頃「料理の鉄人」という番組が流行し、時代は“グルメ”という言葉がその人の価値を上げるような感じで使われていました。そして、その番組にも出てみないか?という声もかかりましたが、本当のグルメは、その素材の持つ本当の美味しさがわかる人のことを言うのではないか、そしてさらには、その時の体調によって美味しいと感じるものは違うと疑問を抱き、出演のお誘いはお断りしました(私自身、緊張に耐えられる自信もなかったのですが・・・)。
 もともと、食べることは心も体も元気にすることだと思っていたという事もあり、そして自然とは切り離せないことを感じていました。そして、山からの葉を摘んできてお料理を提供しているフランスのレストラン「ミッシェル・ブラス」に研修で厨房に入らせてもらい、そこで自然とともに生かされていることを強く体で感じ、“確信”いたしました。
 そんな折に、以前、お世話になっていた岡本清孝先生が、国立北京中医学大学日本分校で中医学の勉強をなさっており、どんなものかと興味を持ちました。私の両親は共に医者であったため、身近なところに医療があったわけですが、特に母は東洋医学である鍼と漢方の勉強をしており、普段から自分の治療にとり入れていました。家ではお腹が痛いといえば鍼を刺されたりお灸をされたり、また葛根湯の話や、母と父が医療の交流で中国に行った時に買ってきた田七人参が引き出しの中にごろごろ転がっていたりと、中学生の頃から東洋医学のことが耳に入ってきていたこともあり、それもきっかけとなったと思います。

現在のお仕事内容はどのようなものですか?

 料理の仕事を始めてそろそろ40年が経ちますので、それにともなってこれまで多くのところでお仕事をさせていただいております。
 まず母校である日本中医学院の薬膳専科講師。
 そして本の出版や新聞・雑誌などへの掲載、中医学の知識を生かした商品開発(キッコーマンこころダイニングなど)、中医学薬膳講座、自宅での薬膳料理教室、チェリーテラス(代官山)での教室など、さらには外部の講師、NOP法人キャンサーリボンズハウス委員、辻調理師専門学校薬膳講師、キッコーマンこころダイニング薬膳セミナー監修や症状別薬膳講座なども。
 その他、学校の教材にもなっている食物性味表の研究をしていた元性味委員チームで研究を続け、その成果を活かしたいと考え、著名な中医師の先生方とのコラボ講座などを開催しています。

お仕事で大切にしていることはどんなところですか?

 ありきたりかもしれませんが、「一期一会」ですね。

お会いした方に中医学とお料理を通して、今後の食生活の中でヒントになり、活かせられるように、という思いです。そして“薬膳”ですので、しっかり味わって“体で感じていただく”こと。お教室でも、お料理の途中にしつこいほど、素材の味、ソース、味の変化などを試食していただいています。

この仕事についてよかったなと思うところは?

 乳がんの方の患者さんに、私の執筆した本を読んでいただいたところ、「病気でもこんなにおいしいものが食べられるのだと希望が持てた」というご感想をいただいたり、また、講座や教室にいらした方々からも、「身体の調子がよくなった」「素材の美味しさの活かし方や活用法が分かった」などとおっしゃっていただくと、少しでも役に立てている幸せを感じます。

医療と食の専門家チームによる村岡先生の共著
旧姓・加藤奈弥名義でも著書多数

先生にとって中医学の魅力とはなんでしょうか?

 母からは、西洋の医学は特別な道具や薬がなければ治せないので、東洋医学の針・お灸・漢方を勉強し始めたと聞いていましたが、これも魅力の一つだと思います。今、私の生活の中でも自然の移り変わりや、心や体の変化などを感じることができることではないかと思います。中医学を勉強すると、いろんな症状、心の状態、性格などまでを網羅し、多方面から心豊かに人に接することができるようになり、食材に対してもその素材の持つ効能を生かして料理することが考えられるようになるので、日々探求心をくすぐられます。

北京中医薬大学日本校(現・日本中医学院)で学んでよかったと思うところは?

 私が、学んでいた30年近く前は、国立北京中医学大学日本校ではなく日本分校でしたが、本校から教授がいらして手書きのプリントで勉強していました。そして、卒業試験は北京の本校まで受けに行っていました。
 そのおかげで優秀な先生方から直で中医学の本筋を学べることができ、中国語でわからない文献などある場合は、すぐに質問でき、さらには日本の事情や西洋医学の治療に対しても、中医学的な知見もしっかりと説明していただけます。
 私は性味表の出版の委員をしておりましたが、その委員会でも先生方には本当にお世話になりました。

薬膳で方剤を再現する講座

在校生に伝えたいことは?

在学中にどっぷりと中医学につかり、ご自分の体調、ご家族の体調、そしてご友人の体調など、身近にある生活の中や、医療に関係付けながら学ぶことによって、しっかりと本格的な中医学を身に着けることができると思います。存分に中医学を楽しんでください。

卒業生に伝えたいことは?

 中医学を学ぶことを辞めず、学び続けて更なる中医学の奥深さを味わって、中医学を広めていただきたいと思います。
 
 そして、もしどこか不調を訴えている心と体に出会ってしまったら、中医学の知識を生かし改善し、貢献していただければと願っております。

先生の今後の目標や展望をお聞かせください。

 もう、中医学を学び、薬膳の仕事をしてそろそろ30年が経ちますが、これからも淡々と奥深い中医学の勉強を続け、そして食材選びと料理法を考え続けることの大切さを大事にしていく事を継続することです。
 さらに、この薬膳の知恵を少しでも伝えていくことができたらと思っております。
 今後も出会った仕事をしっかり行い、日々の変化に対応しながら、子供たちの食生活のお手伝いもできたら嬉しいと思っております。

『方剤から学ぶ薬膳講座』

 村岡奈弥先生は、日本中医学院で講師をされている小金井信宏先生の監修の元、『方剤から学ぶ薬膳講座』を開催しております。
 身近な食材を使って、よく使われる方剤を再現する講座です。小金井先生による方剤の講義を聞いた後に、村岡先生の料理・食材解説と試食をするというものです。人気のある講座ですので、村岡先生のサイトをご覧いただいてぜひご参加してみてください。

村岡奈弥先生のプロフィール

国際中医師、中医薬膳師、調理師、NPO法人キャンサーリボンズハウス委員

東京生まれ
両親が、医学博士であり漢方専門医という環境を活かし、薬膳の考えを広めるため、雑誌や朝日新聞や日経インテレッセの連載やTVでの薬膳紹介、執筆活動、カルチャーセンター講師、国立北京中医薬大学日本校講師、旧料亭「かおの庭」高知県でのメニューの監修、軽井沢プリンスホテルデトックスプランのメニュー指導、東急グループ高齢者施設のメニュー指導などを務める。
現在、主に自宅での薬膳料理教室を主宰するほか、日本中医学院薬膳科講師、キッコーマンこころダイニングの商品開発やレストラン形式の薬膳セミナー業務委託にあたる。また、レストラン形式の中医学講座や薬膳教室なども手掛ける。NPO法人キャンサーリボンズハウス委員。

村岡奈弥先生の著書
「家族をいたわるスープブック」(講談社)
「アンデスのスーパーフード キヌアレシピ」(成美堂出版)
「乳がんの人のための日常レシピ」(株式会社ブックエンド)
 旧姓・加藤奈弥として出版された著書
「さびない漢方ごはん」(NHK出版)、
「いつもの野菜で薬膳する」(講談社)
「おもてなし上手のシンプル四季ごはん」(中央公論社)、
「からだの中からきれいをつくるパワーレシピ」(講談社)
「乳がんの人のためのレシピ」(法研)