日本中医会・交流・コミュニティー

「病気を治す」という以上に「生きる力・治る力を引き出す」というのが中医学の魅力だと思います。そういう意味で「気」の存在を尊重する、全人的な療養に惹かれます。
大田ゆう子
洗足薬膳お料理教室 / 聘珍樓薬膳顧問

連載シリーズ『中医学とわたし』 File No.1

洗足薬膳お料理教室
聘珍樓・薬膳顧問

大田ゆう子先生


国際中医師・国際中医薬膳師・医学気功整体師

中医学にご興味をもったきっかけはありますか?

 学生時代に中国語を習っていたことがそもそものきっかけです。
 そしてずっと中国語が伝える秀抜たる中国文明文化をもっと知りたい、いつか関わりたいと思っていました。オフィスワークで体調を崩したときに漢方薬で体調が整ったことや、いくつかの確信が重なり、薬膳をするために中医学を学びました。

現在のお仕事内容はどのようなものですか?

私の現在の仕事は、薬膳を2つの方向で展開しています。

 ひとつは東京都品川区で「洗足薬膳お料理教室」という料理教室の主宰運営です。
 中医の資格を取った年に立ち上げて今年(2023年)で12年目になります。今の時代、不安要素を列挙すれば限りがありませんが、かつて自分がそうだったように仕事や家庭で圧がかかるほど、健康や心(こころ)を失いやすくなります。中医学を学ぶことで体のサインをキャッチしたり、体の内側のバランスに気づいたり、毎日の食事で体調管理する習慣を身につけると、自分のために何を食べたらよいのかが分かり、それが自信や勇気にも繋がってきます。味わう喜びとともに、心身を養う薬膳の食卓を伝えたく、お教室では座学と調理実習をお伝えしています。お教室から薬膳への興味が深まり、日本中医学院へ進学された生徒さんも何人もいらっしゃいます。

洗足薬膳お料理教室での薬膳料理の様子

 もうひとつは広東料理の老舗レストラン「聘珍樓」での薬膳活動です。
 講師として年4回、「薬膳セミナー」で養生レクチャーを行い、テーマに沿った料理を監修して総料理長が仕立てる料理をゲストの方たちに召し上がっていただきます。セミナーは13年目を迎え、延べ8千人以上の方へさまざまな薬膳をお伝えしてきました。ほかにも薬膳茶(紅薫温茶・紅香麗茶など)やスープの商品開発、アンチエイジングなどのコース監修に携わっております。 

聘珍樓の薬膳セミナーで使う豪華な食材

お仕事で大切にしていることはどんなところですか?

 “迷ったときこそ、「ブレない」”ということでしょうか?
 たとえば薬膳ならば、料理の見栄えよりも食材の力とセオリー優先にするとか。
 そして、「正直に向かい合う」ということでしょうか?
 食材に対しても、人に対しても、自分にも。

この仕事についてよかったなと思うところは?

 たくさんの人と出会えたこと。仕事の最後に笑顔が返ってくること。

先生にとって中医学の魅力とはなんでしょうか?

 「病気を治す」という以上に「生きる力・治る力を引き出す」というのが中医学の魅力だと思います。そういう意味で「気」の存在を尊重する、全人的な療養に惹かれます。

北京中医薬大学日本校(現・日本中医学院)で学んでよかったと思うところは?

 私は2006年に北京中医薬大学日本校の薬膳専科に入学し、それから早17年が経ちました。会社勤めをしながら学校で学び、とちゅう合間はあったものの約8年間ほど通学して国際中医師・国際中医薬膳師・医学気功整体師の資格を取得しました。つい遊びたくなる休日・土日を返上しても8年間も学びを持続できたのは、北京中医薬大学日本校の先生方のハイレベルにして情熱的な授業に引き込まれたからに他なりません。卒業して日にちがたつほど感謝が深まります。

在校生に伝えたいことは?

 大人の勉強は、仕事や家庭を抱えながら大変だと思います。でも、その努力が報われるときは、必ず来ます。今なら生徒という立場で何でも質問ができますし、超一流の教師陣に恵まれた環境で、自分の興味に根ざしたことを深く学べるチャンス、そしてまとまった時間は人生においてなかなか無いです。広大なる中医学の世界で、迷いながらも宝石のような先人の知恵に触れる喜びを大切にしてください。

卒業生に伝えたいことは?

 2016年、本土の北京中医学大学新校舎で行われた創立60周年記念の式典へ研修同行したときのこと。同窓会館前にこう刻まれた石碑がありました。

「人参 知母 当帰」

 生薬の名前が何を意味するのかお分かりですか? 私はまったく気づかず、引率いただいた李先生がこう教えてくださいました。
「人は母を知り、母のもとへ帰る。だから卒業した母校へ帰ってくるのは当然のこと。どうぞみなさん、卒業した母校へ帰ってきてください、という意味ですよ」。

 このあたりの言葉のセンスに、詞を重んじる中国文化を感じますね。さすが弁証論治が生まれたお国柄、と感じ入りました。卒業して時間は経っても中医学を学んだ者として、今のフィールドでお互いを知り合ったり、活かし合うことができれば嬉しいですね。その場を提供してくれるこれからの「中医会」に、期待が膨らみます。

先生の今後の目標や展望をお聞かせください。

 コロナ禍を経て、健康を守る食への関心がいっそう高まりました。お教室で、一緒に手を動かし時間を共有することはライフワークとして続けたいです。それと同時に、中医学に基づく薬膳は、色あせないもの。何を食べたらよいかというスペックやファッションではない、二千年の時を経て、今なおデジタル時代の現代人の未病さえ養生していく力をもつことを広く伝えたいです。

大田ゆう子先生・国際中医薬膳師・国際中医師・洗足薬膳お料理教室・聘珍楼薬膳セミナー

大田ゆう子先生のプロフィール

国際中医師・国際中医薬膳師・医学気功整体師

立教大学卒業後、広告代理店等に勤務。40代のとき北京中医薬大学日本校薬膳専科に通い始める。2007年国際中医薬膳師取得、2011年国際中医師取得、2013年医学気功整体師取得。2010年に中国料理レストラン『聘珍樓』での「季節の薬膳セミナー」をスタート。以後、薬膳顧問となり、薬膳メニューの監修や薬膳商品の開発などにも携わる。2011年、品川区にて『洗足薬膳お料理教室』を開校。2016年には聘珍樓薬膳部として『聘珍樓のいちばんやさしい薬膳』(PHP研究所)を刊行。雑誌掲載やコラム執筆多数。エコール 辻 東京「日本料理」修了。辻調理師専門学校別科通信教育「中国料理」、「西洋料理」等修了。

中国料理の名店で薬膳を学ぶセミナー

聘珍樓薬膳セミナー

中国料理の老舗である広東料理の名店・聘珍樓。
大田ゆう子先生が監修し、講師をしている聘珍樓薬膳セミナーは多くの方から好評を博しております。季節に合わせたテーマや、美容や肩こりなどの症状別のものなど、中医学の知識を活かしたメニューはどれも健康的で、絶品です。大田先生とマダムの軽妙な会話や抽選会などもあり、たのしく、おいしく、そして学べる会となっています。